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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)240号 判決 1972年11月24日

主文

理由

上告代理人江口三五の上告理由について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠によれば、上告人の被上告人東海株式会社に対する本件土地建物の所有権移転登記手続は同被上告人の上告人に対する債権を担保することを目的とした流質的特約のない譲渡担保契約に基づいてなされたものであり、右譲渡担保契約においては、弁済期に上告人が債務を弁済しない場合においても、同被上告人が担保権を実行しない間は、上告人は元利合計金を弁済して本件土地建物の所有権を回復することができ、また上告人が弁済期を徒過したときは同被上告人は担保権を実行し本件土地建物を評価してその内から自己の債権について優先弁済を受け、残額は上告人に返還すべき義務を負うものと解すべきであるから、上告人主張の錯誤および詐欺の存在は認められず、暴利行為と目す余地もなく、また利息制限法違反による被担保債権不成立の事実も認められない旨ならびに被上告人東海株式会社と同伊藤忠商事株式会社との間の根抵当権設定契約および代物弁済予約の締結が通謀虚偽表示によるものとは認め難いとした原判決の認定・判断は、これを肯認するに足り、その過程に所論の違法はない。

もつとも、原審は、上告人と被上告人東海株式会社との関係においては民訴法三三八条の適用により上告人の右虚偽表示の主張を認めうるが、上告人と被上告人伊藤忠商事株式会社との関係においては証拠上右の主張を認めえない旨判示するが、上告人は被上告人伊藤忠商事株式会社に対する請求において右虚偽表示の主張をしているのであつて、被上告人東海商事株式会社に対する請求において右の主張をしているものではないから、原審が上告人と同被上告人との関係において右法条を適用したのは同条の解釈・適用を誤つたものといわなければならない。しかし、右の違法は上告人の被上告人伊藤忠商事株式会社に対する請求に関する原判決の結論に影響を及ぼすものでないことは明らかであるから、所論中原判決の右判示部分を非難する点は理由がない。

つぎに、所論は、被上告人東海株式会社と同伊藤忠商事株式会社との間の前記各契約の成立後における被担保債権の成否および時効中断に関する原判決の認定・判断を種々論難するが、上告人は原審において右被担保債権の一部が有効に成立し現存していることを自認しているところ、根抵当権設定後の被担保債権の消長は、根抵当権の効力になんら影響を及ぼすものでないから、右の主張はすべて前提を欠くものというべきである。

所論はすべて理由がなく、論旨はいずれも採用することができない。

(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 色川幸太郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)

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